トイレのメッセージとバフェット氏からのメッセージ(下)
2012.05.16 00:40 世間一般
前回は“トイレのメッセージ”のイノベーションについて長々論じて、トイレ使用者が上場企業の役員さんから見た株主さん同様にメンドクサイ人々であることを説明した。で、“トイレのメッセージ”のイノベーションのことを知ると、意外にも株主総会における株主さんとの接し方のヒントが隠されていることに気付く。上場企業の役員さんたちにきっと役立つに違いない。かの有名なウォーレン・バフェット氏は、このメンドクサイ株主さんたちに対して見事に対応しているらしい。で、その手法は、前回述べた“トイレのメッセージ”におけるイノベーションと同じ手法なのだ…という、誰もアホらしくて指摘しなかった話が今回のテーマ。
まず株主さんのメンドクサイ点をもう一度おさらいしておこう。最も基本的なところ。株主さんはヒトだ。基本的すぎる?いえいえ、もちろん法人だって株主になれるのでヒトと限らないことくらいは筆者も知っている。が、法人株主さんも結局は、その組織内の誰かの意向を主張してくるという意味で背後に動物としてのヒトを想定することができる。株主総会に実際に参加する場合には、誰かヒトを送り込んでくるしね。で、ヒトなので当然、感情があって、プライドもあるし、自分なりの意見だって場合によってはお持ちだ。ただ、前回も書いたように上場会社の株主さんが総会で発言されるときに厄介なのは、その会社の日々の経営に疎いだけではなく、企業によって行われる経済活動全般に関して素人さんである場合が多いこと。機関投資家もその会社の日々の経営に疎い点では個人投資家と大差無い。ただ、個人投資家さんの方が、無邪気に好き勝手な意見を述べてくるところが悩ましくもあり、オモシロくもある(笑)。
例えば、オリエンタルランド(ご存じかと思うが東京ディズニーリゾートの運営母体である上場企業)の株主総会で、『新しい魅力的なアトラクションとして、ワシはキティちゃんもアリだと考えておる。あのレディー・ガガもキティちゃんのファンだと孫娘から聞いて、ますます自信を深めた。そのあたりの経営陣の考えをお聞かせ頂きたい。』などというアドバイスを頂いちゃった場合(もちろん、このセリフは筆者の創作です)、壇上から『キティちゃんはナシです!』とはっきり言いづらい。オリエンタルランドの経営陣が直観的に『キティちゃんはあり得ない』と感じるのに反して、無理してやれば不可能では無いところも厄介だ。でも、サンリオにロイヤリティを支払ってまでやるわけが無い。これは純粋にビジネス上の意思決定。経営陣が判断することなのだ。
個人株主さんにはそのようなビジネス上の常識が通用しないことが多いところも悩ましい。『取締役は株主の委任を受けている』という会社法のエッセンスの部分を、単純な上下関係だと理解してモノを言ってくる場合、無碍に扱えば怒り出したりするしね。ホントよ(笑)。
上場会社の役員さんたちの本音として、こういった個人株主さんたちに株主総会で好き勝手に振る舞われるのはあまり歓迎できないのだ。でも、大半の上場会社の役員さんたちは、有効な“トイレのメッセージ”を研究した方に比べてみれば、株主さんたちの行動に働きかけるよう試行錯誤した形跡が全然見られない。そりゃ、怠惰ってもんでしょう。“トイレ使用者”に“オシッコを辺りに飛び散らないようにさせよう”とする努力同様、“株主さん”たちの振る舞いにだって何らかの影響を与えることが可能なハズだ。ちょっと考えてみよう。
まず“オシッコが辺りに飛び散らないように”よりも多少複雑なことを株主さんたちにお願いしたいので、前回に述べた(B)タイプのメッセージはちょっと使えそうにない。株主さん一人一人に、誰にでもできる簡単なアクションをしていただきたいわけでは無いからだ。(A)タイプのメッセージはかなり有望だ。実はこれをものすごく上手に行っているのがウォーレン・バフェット氏。前回ご紹介した(A)タイプのメッセージを株主さんに発することで場違いな質問や独りよがりな発言に事前に釘を刺している。バークシャーハサウェイの株主さん宛に送付したバフェット氏の手紙から、株主さんたちを“期待”で操る秀逸なメッセージを書き抜いてみよう。さすが、バフェット氏だ。
毎年開かれる年次株主総会の多くは、株主にも経営者にとっても時間の無駄にすぎないものです。企業の本質にかかわるような事柄を開示したくないと考える経営者にとっては、それは当然の思いでしょう。総会が非生産的なものとなる原因は、多くの場合、企業の問題よりも自分が壇上で話すことにばかり気を取られるような出席株主にあります。ビジネスに関する討議をすべき場が、素人芝居、恨みのはけ口、あるいは議論を擁護するための場と化してしまっているのです(これはどうにもならない現実です。人は株価を支払った見返りとして、話を聞かざるを得ない立場の観客に対して、いかに世界を動かすかについて得々と語るものなのです)。こうした状況の下、自分自身にしか関心を持たない株主の常軌を逸した言動によって、企業に関心を持つ人々の出席率は下がり、総会の質は年々、低下の一途をたどっているのです。
しかし、バークシャーの株主総会は違います。出席株主数は年々増加していますし、つまらない質問や自己中心的な批判などはいまだ経験したことがありません。出される質問は、ビジネスに関する多岐にわたる思慮深いものばかりです。年次株主総会とはこのような人々のための場ですから、チャーリーも私もどれほどの時間がかかろうと、株主の質問に答えることをうれしく思っています。(『バフェットからの手紙』 ローレンス・A・カニンガム著、増沢浩一監訳、パンローリング より一部抜粋)

By trackrecord
これは筆者の真面目な提案だ。今年6月の株主総会の招集通知に、自社の株主さんたちがいかに理知的で、経営陣に対するサポートを惜しまない素敵な方々で、いかに自社の株主総会がこれまで有意義に運営されてきたかを涙を流しながら感謝するような社長からの熱いメッセージを掲載すると良いだろう。同時にいかに他の会社の株主総会では、間抜けな株主が訳知り顔で自説を他の参加者たちにとうとうと述べるか、知りもしない事業分野に関してトンチンカンな提案をしてくるかを例を挙げてこきおろそう。そして締めくくりに、自社の株主総会がそのような間抜けな集まりにならないことに繰り返し感謝の言葉を述べておこう。とても目立つように、どの株主さんも必ず最後まで読めるような易しい文体、大きな文字で社長からのメッセージを掲載するのが望ましい。
って、舞台裏を明かしちゃうと『馬鹿にするな!』と怒られてしまいそうだが、ウォーレン・バフェット氏はこれを実行しているのだ。かなり効くと思う。社長から株主様宛へのメッセージにも、“トイレのメッセージ”くらいのイノベーションを期待したいものだ。どこかの上場会社さん、やってみませんかね?
まず株主さんのメンドクサイ点をもう一度おさらいしておこう。最も基本的なところ。株主さんはヒトだ。基本的すぎる?いえいえ、もちろん法人だって株主になれるのでヒトと限らないことくらいは筆者も知っている。が、法人株主さんも結局は、その組織内の誰かの意向を主張してくるという意味で背後に動物としてのヒトを想定することができる。株主総会に実際に参加する場合には、誰かヒトを送り込んでくるしね。で、ヒトなので当然、感情があって、プライドもあるし、自分なりの意見だって場合によってはお持ちだ。ただ、前回も書いたように上場会社の株主さんが総会で発言されるときに厄介なのは、その会社の日々の経営に疎いだけではなく、企業によって行われる経済活動全般に関して素人さんである場合が多いこと。機関投資家もその会社の日々の経営に疎い点では個人投資家と大差無い。ただ、個人投資家さんの方が、無邪気に好き勝手な意見を述べてくるところが悩ましくもあり、オモシロくもある(笑)。
例えば、オリエンタルランド(ご存じかと思うが東京ディズニーリゾートの運営母体である上場企業)の株主総会で、『新しい魅力的なアトラクションとして、ワシはキティちゃんもアリだと考えておる。あのレディー・ガガもキティちゃんのファンだと孫娘から聞いて、ますます自信を深めた。そのあたりの経営陣の考えをお聞かせ頂きたい。』などというアドバイスを頂いちゃった場合(もちろん、このセリフは筆者の創作です)、壇上から『キティちゃんはナシです!』とはっきり言いづらい。オリエンタルランドの経営陣が直観的に『キティちゃんはあり得ない』と感じるのに反して、無理してやれば不可能では無いところも厄介だ。でも、サンリオにロイヤリティを支払ってまでやるわけが無い。これは純粋にビジネス上の意思決定。経営陣が判断することなのだ。
個人株主さんにはそのようなビジネス上の常識が通用しないことが多いところも悩ましい。『取締役は株主の委任を受けている』という会社法のエッセンスの部分を、単純な上下関係だと理解してモノを言ってくる場合、無碍に扱えば怒り出したりするしね。ホントよ(笑)。
上場会社の役員さんたちの本音として、こういった個人株主さんたちに株主総会で好き勝手に振る舞われるのはあまり歓迎できないのだ。でも、大半の上場会社の役員さんたちは、有効な“トイレのメッセージ”を研究した方に比べてみれば、株主さんたちの行動に働きかけるよう試行錯誤した形跡が全然見られない。そりゃ、怠惰ってもんでしょう。“トイレ使用者”に“オシッコを辺りに飛び散らないようにさせよう”とする努力同様、“株主さん”たちの振る舞いにだって何らかの影響を与えることが可能なハズだ。ちょっと考えてみよう。
まず“オシッコが辺りに飛び散らないように”よりも多少複雑なことを株主さんたちにお願いしたいので、前回に述べた(B)タイプのメッセージはちょっと使えそうにない。株主さん一人一人に、誰にでもできる簡単なアクションをしていただきたいわけでは無いからだ。(A)タイプのメッセージはかなり有望だ。実はこれをものすごく上手に行っているのがウォーレン・バフェット氏。前回ご紹介した(A)タイプのメッセージを株主さんに発することで場違いな質問や独りよがりな発言に事前に釘を刺している。バークシャーハサウェイの株主さん宛に送付したバフェット氏の手紙から、株主さんたちを“期待”で操る秀逸なメッセージを書き抜いてみよう。さすが、バフェット氏だ。
毎年開かれる年次株主総会の多くは、株主にも経営者にとっても時間の無駄にすぎないものです。企業の本質にかかわるような事柄を開示したくないと考える経営者にとっては、それは当然の思いでしょう。総会が非生産的なものとなる原因は、多くの場合、企業の問題よりも自分が壇上で話すことにばかり気を取られるような出席株主にあります。ビジネスに関する討議をすべき場が、素人芝居、恨みのはけ口、あるいは議論を擁護するための場と化してしまっているのです(これはどうにもならない現実です。人は株価を支払った見返りとして、話を聞かざるを得ない立場の観客に対して、いかに世界を動かすかについて得々と語るものなのです)。こうした状況の下、自分自身にしか関心を持たない株主の常軌を逸した言動によって、企業に関心を持つ人々の出席率は下がり、総会の質は年々、低下の一途をたどっているのです。
しかし、バークシャーの株主総会は違います。出席株主数は年々増加していますし、つまらない質問や自己中心的な批判などはいまだ経験したことがありません。出される質問は、ビジネスに関する多岐にわたる思慮深いものばかりです。年次株主総会とはこのような人々のための場ですから、チャーリーも私もどれほどの時間がかかろうと、株主の質問に答えることをうれしく思っています。(『バフェットからの手紙』 ローレンス・A・カニンガム著、増沢浩一監訳、パンローリング より一部抜粋)

By trackrecord
これは筆者の真面目な提案だ。今年6月の株主総会の招集通知に、自社の株主さんたちがいかに理知的で、経営陣に対するサポートを惜しまない素敵な方々で、いかに自社の株主総会がこれまで有意義に運営されてきたかを涙を流しながら感謝するような社長からの熱いメッセージを掲載すると良いだろう。同時にいかに他の会社の株主総会では、間抜けな株主が訳知り顔で自説を他の参加者たちにとうとうと述べるか、知りもしない事業分野に関してトンチンカンな提案をしてくるかを例を挙げてこきおろそう。そして締めくくりに、自社の株主総会がそのような間抜けな集まりにならないことに繰り返し感謝の言葉を述べておこう。とても目立つように、どの株主さんも必ず最後まで読めるような易しい文体、大きな文字で社長からのメッセージを掲載するのが望ましい。
って、舞台裏を明かしちゃうと『馬鹿にするな!』と怒られてしまいそうだが、ウォーレン・バフェット氏はこれを実行しているのだ。かなり効くと思う。社長から株主様宛へのメッセージにも、“トイレのメッセージ”くらいのイノベーションを期待したいものだ。どこかの上場会社さん、やってみませんかね?
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